飲食店の棚卸しのやり方|手順と原価への反映
更新日 2026-09-08(公開日 2026-09-08)
棚卸しは、手間のわりに効果が見えにくい作業として後回しにされがちです。実際、数えなくてもその月の仕入額と売上は分かります。ただ、その2つだけでは「今月いくら使ったのか」が出せません。まとめ買いをした月は原価率が跳ね上がり、在庫を使い切った月は下がるという具合に、数字が仕入のタイミングに振り回されます。この記事では、棚卸しをいつ、どの順番で、どんな単位で数えるのか、そして出した金額を原価率にどう反映させるのかを、簿記の知識がない前提で順に整理します。
棚卸しは「実際に使った額」を出すための作業
棚卸しとは、決めた日に店にある食材や飲み物の在庫を数えて金額に直す作業です。数えないと、その月に仕入れた金額は分かっても、実際に使った金額が分かりません。原価率は使った分で計算するものなので、棚卸しをしていない原価率は、仕入の多い月に高く、少ない月に低く出ます。
たとえば月末に酒をまとめて仕入れた場合、その分は翌月に売れるのに、仕入の金額としては今月に乗ります。棚卸しで月末の在庫を差し引けば、この分は今月の原価から外れます。毎月同じ日に数えていれば、月ごとの上下は仕入のタイミングではなく、実際の使い方を映すようになります。
- •原価率は「仕入れた金額」ではなく「実際に使った金額」で計算する
- •棚卸しをしないと、まとめ買いをした月だけ原価率が跳ね上がる
- •月末の在庫を差し引くことで、その月に使った分だけが残る
- •毎月同じ日に数えるから、月ごとの比較ができるようになる
いつやるか(締め日にそろえて固定する)
棚卸しの日は、売上と仕入の締め日にそろえるのが基本です。多くの店では月末になりますが、月末が繁忙日にあたるなら、毎月同じ日であれば別の日でも構いません。大事なのは日付を毎月動かさないことです。日がずれると、その分の仕入や売上が前後の月に混ざります。
時間帯は、閉店後の締め作業のあとか、開店前の仕込みが始まる前が向いています。営業中は在庫が動き続けるため、数えた端から数字が変わってしまいます。冷蔵庫の開け閉めが少ない時間に一気に済ませるほうが、結果として早く、正確に終わります。
- •棚卸しの日は売上・仕入の締め日にそろえる(多くの店は月末)
- •月末が忙しいなら別の日でもよい。毎月同じ日にすることが優先
- •数えるのは閉店後か開店前。営業中は在庫が動いて数字が合わない
- •納品が入る時間とぶつからない日時を選ぶ
- •決めた日時はカレンダーに固定して、その都度考えないようにする
数える前に決めておくこと(場所の順番と単位)
棚卸しの手際は準備でほぼ決まります。決めておくのは2つ、数える場所の順番と、品目ごとの単位です。場所は、冷蔵庫、冷凍庫、常温の棚、酒の在庫、カウンター下、というように店を1周する並びで書き出しておきます。順番が毎月同じなら、数え漏れが起きにくくなります。
単位は品目ごとに1つに決めます。同じ食材をキロで数える月と袋で数える月が混ざると、金額に直すときに取り違えます。瓶や缶は本数、粉やソースはキロやリットルというように、仕入伝票に書かれている単位に合わせておくと、伝票の単価をそのまま掛けられます。
- •数える場所の順番を決めて紙に書き出す(店を1周する並びにする)
- •品目ごとに単位を1つに固定する(本・キロ・リットルなど)
- •単位は仕入伝票に合わせると、単価を掛けるだけで金額になる
- •品目の並びは毎月同じにする。並べ替えると前月と比べられない
- •金額の小さい調味料を数える対象に含めるかどうかも先に決めておく
数え方の手順(場所ごとに1周する)
当日は決めた順番どおりに場所を回り、1か所ずつ数えて記入します。途中で別の場所へ移らないことが大切です。冷蔵庫を数えている最中に、そういえば倉庫の米は、と動いてしまうと、戻ったときにどこまで数えたか分からなくなります。
手順は、場所に着く、棚の上から下へ順に数える、その場で記入する、次の場所へ移る、の繰り返しです。数え終わった棚に印をつけるか扉に付箋を貼っておくと、途中で呼ばれても再開できます。全部終わったら、記入漏れの空欄がないかだけを最後に見ます。
- •決めた順番どおりに1か所ずつ回る。途中で場所を飛ばさない
- •棚は上から下へ、手前から奥へと向きを決めて数える
- •数え終わった場所に印をつけると、中断しても再開できる
- •未開封の箱は箱数で数え、単位の換算は後回しにする
- •最後に空欄が残っていないかだけ確認する
仕掛品・開封済み・まかないの扱い
迷いやすいのが、仕込み途中のものと開封済みのものです。仕込んだソースやだし、下処理をした肉などは食材としての価値が残っているので数えます。ただし細かく原価を割り戻そうとすると終わらないため、使った主材料の量でおおまかに置くのが現実的です。
開封済みの袋や瓶は、目分量で半分、3分の1といった形で記入します。厳密でなくても、毎月同じ人が同じ基準で見ていれば、月ごとの比較には十分使えます。まかないに使った分は売上にならないため、在庫から抜くのか別に記録するのか、扱いを先に決めておきます。
- •仕込み済みのソースやだしも在庫として数える(主材料の量でおおまかに)
- •開封済みは目分量で半分・3分の1と記入してよい
- •厳密さより、毎月同じ人が同じ基準で見ることを優先する
- •まかないや廃棄の扱いは、数え始める前に決めておく
- •判断に迷ったものは基準をメモに残し、翌月も同じ扱いにする
- •まかないの費用が税務上どう扱われるかは条件で変わるため、顧問税理士か所轄の税務署にご確認ください
数えた量を金額に直す
数えた量に単価を掛けて、在庫の金額を出します。単価をどの仕入値にするかにはいくつかの考え方があり、よく知られているのが、直近に仕入れた価格を単価とみなす最終仕入原価法と呼ばれる方法です。伝票を遡らずに済むため、手作業でも回しやすい考え方とされています。
ほかに、期間中の仕入を平均して単価にする方法などもあります。どの方法を採用できるかは、届け出の有無や事業の形態によって扱いが変わることがあるため、自店でどれを使うかは顧問税理士か所轄の税務署にご確認ください。いずれの方法でも、毎月同じやり方を続けることが前提になります。
- •在庫の金額=数えた量×単価。単価の決め方を先に統一する
- •直近の仕入価格を単価とみなす方法は、伝票を遡らずに済む
- •期間中の仕入を平均する方法など、ほかの考え方もある
- •どの方法を採用するかは顧問税理士か所轄の税務署に確認する
- •途中で方法を変えると、前月との比較が成り立たなくなる
原価率への反映(期首+仕入−期末)
その月に使った食材の額は、前月末の在庫に今月の仕入を足し、今月末の在庫を引いて求めます。式にすると、期首在庫+当月仕入−期末在庫です。今月末の在庫は、そのまま翌月の期首在庫になります。この使った額を売上で割ったものが、一般に食材の原価率と呼ばれています。
人件費と合わせた比率を見る場合は、この使った額に人件費を足して売上で割ります。飲食では一般に60パーセント前後が目安として語られることが多いものの、適正な水準は業態によって変わります。他店の数字と比べるより、自店の数字を毎月同じ方法で出して推移を見るほうが、判断の材料になります。
- •その月に使った食材の額=期首在庫+当月仕入−期末在庫
- •今月末の在庫が、そのまま翌月の期首在庫になる
- •原価率=使った額÷売上。人件費を足した比率も同じ考え方
- •一般に語られる目安はあるが、適正な水準は業態によって変わる
- •見るべきは他店との比較ではなく、自店の推移
よくあるズレの原因
前月と数字が大きく食い違うときは、まず数え方を疑います。多いのは場所の数え漏れです。予備の冷凍庫、店の外の倉庫、カウンター下のストックなど、普段あまり開けない場所が抜けます。場所のリストを毎月同じものにしておけば、この原因はほぼ防げます。
次に多いのが単位の取り違えです。1キロ入りの袋を1と書いた月と1000と書いた月が混ざると、金額が桁ごと変わります。ほかにも、納品は済んでいるのに仕入の記録が入っていないもの、廃棄や返品の記録漏れ、まかないの扱いを月によって変えたことがズレの原因になります。
- •数え漏れ(予備の冷凍庫・外の倉庫・カウンター下など普段開けない場所)
- •単位の取り違え(袋とキロ、本とケースが月によって入れ替わる)
- •納品は済んでいるのに仕入の記録が入っていない
- •廃棄や返品を記録していない
- •まかないの扱いを月によって変えている
- •数える時間帯が月によって違う(営業中に数えた月がある)
毎月続けるためのコツ
棚卸しが続かない理由は、たいてい時間が読めないことです。何時間かかるか分からない作業は後回しになります。最初の1回で全体の所要時間を測り、毎月末の閉店後に何分、という枠を決めてしまうと、あらかじめ予定に組み込めるようになります。
人手があるなら2人で組むのが早いです。1人が数えて読み上げ、もう1人が記入します。数える人が手を止めないので、1人でやるより短く終わります。表は毎月同じものを使い、品目の順番も変えません。前月の記入済みの表を隣に置くと、桁の違いにその場で気づけます。
- •所要時間を1度測り、毎月の枠として固定する
- •2人一組で「数えて読み上げる人」と「記入する人」に分ける
- •表は毎月同じものを使い、品目の並びを変えない
- •前月の表を隣に置き、大きく違う行はその場で数え直す
- •完璧を目指さない。同じ基準で毎月続けることを優先する
棚卸しをしないと何が分からなくなるか
棚卸しをしなくても、仕入の合計と売上は分かります。分からなくなるのは、その月に実際にいくら使ったのかと、今どれだけ在庫を抱えているのかの2つです。この2つが見えないと、原価率が上がった原因が値上げなのか、使い過ぎなのか、仕入のタイミングなのかを切り分けられません。
在庫を抱え過ぎている状態も見えなくなります。倉庫に眠っている食材は、支払いは済んでいるのに売上になっていないお金です。棚卸しは在庫の金額を毎月見る機会でもあるので、何か月も動いていない品目や、発注量が多すぎる品目に気づくきっかけになります。
- •実際に使った額が出せず、原価率が仕入のタイミングに振り回される
- •原価率が動いた原因(値上げ・使い過ぎ・仕入時期)を切り分けられない
- •在庫として眠っているお金の大きさが見えない
- •発注量が適正かどうかを判断する材料がなくなる
- •年度の締めで在庫の金額が必要になったとき、遡って作り直すことになる
数えたあとの数字をどう使うか
棚卸しで出した在庫の金額は、それ単体では意味を持ちません。仕入と売上の記録がそろって初めて、その月に使った額と原価率になります。つまり、棚卸しを始めるかどうかより先に、仕入と売上が毎月もれなく集まる形になっているかを整えるほうが、順番としては先です。
AXpress飲食は、レシートを撮影するとAIが日付・店名・金額・勘定科目と税区分の候補を作り、確認して確定すると経費として記録されるサービスです。売上とあわせて食材費と人件費の比率も自動で集計されるため、棚卸しで出した金額を手元で足し引きすれば、その月の原価を確認できます。
- •棚卸しの金額は、仕入と売上の記録とそろって初めて原価率になる
- •先に整えるのは、仕入と売上が毎月もれなく集まる形
- •レシート撮影からAIが仕訳の候補を作る(確定はご自身の操作で行う)
- •食材費と人件費の比率の集計、会計ソフトへ渡すCSVの書き出しにも対応
- •棚卸しそのものの機能はないため、在庫の金額は手元の集計を使う
- •税務上の判断や申告の代行は行わない。判断が要る部分は顧問税理士か所轄の税務署へ
よくある質問
- Q. 棚卸しはどのくらいの頻度でやればよいですか?
- A. 月に1回、売上と仕入の締め日にそろえて行うのが基本です。原価率を月ごとに比べるには、期首と期末の在庫が毎月必要になるためです。酒や単価の高い食材だけを週に1回数え、全体は月に1回にしている店もあります。頻度を上げるほど数字は細かく見えますが、続かなければ意味がないので、まずは月に1回を毎月同じ日にできる形から始めるのが現実的です。
- Q. 棚卸しをしないと原価率は出せませんか?
- A. 仕入の金額を売上で割った数字であれば出せます。ただしそれは仕入れた金額の比率で、実際に使った金額の比率ではありません。月末にまとめ買いをした月は高く、在庫を使い切った月は低く出るため、月ごとに比べても判断の材料になりにくくなります。使った金額で見るには、期首在庫+当月仕入−期末在庫という形で在庫を差し引く必要があります。
- Q. 開封済みの調味料や仕込み中のものはどう数えますか?
- A. 開封済みは目分量で半分、3分の1といった形で記入して構いません。仕込んだソースやだし、下処理済みの肉なども在庫として数えますが、細かく原価を割り戻すと作業が終わらないので、使った主材料の量でおおまかに置くのが現実的です。厳密さよりも、毎月同じ人が同じ基準で見ることのほうが、月ごとの比較には効いてきます。
- Q. 在庫の金額はどの仕入価格で計算すればよいですか?
- A. 考え方はいくつかあり、直近に仕入れた価格を単価とみなす方法(最終仕入原価法と呼ばれます)や、期間中の仕入を平均する方法などが一般に知られています。伝票を遡らずに済む点で前者は手作業向きです。ただし、どの方法を採用できるかは届け出の有無や事業の形態によって変わることがあるため、自店の扱いは顧問税理士か所轄の税務署にご確認ください。
- Q. 数えた数字が前月と大きく違うときは何を見ればよいですか?
- A. まず場所の数え漏れを疑ってください。予備の冷凍庫や外の倉庫、カウンター下のストックなど、普段あまり開けない場所が抜けていることが多いです。次に単位の取り違えで、1キロ入りの袋を1と書いた月と1000と書いた月が混ざると桁ごと変わります。それでも合わなければ、納品済みで仕入の記録が入っていないもの、廃棄や返品の記録漏れを確認します。
- Q. まかないに使った食材はどう扱えばよいですか?
- A. 在庫としては、数える前に店の在庫から抜くのか、別に記録しておくのかを決め、毎月同じ扱いを続けてください。月によって扱いを変えると、原価率の上下が食材の使い方によるものか、記録の仕方によるものかが分からなくなります。なお、まかないの費用が税務上どのように扱われるかは条件によって変わるため、顧問税理士か所轄の税務署にご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。税務・労務の個別の判断については、税理士・社会保険労務士などの専門家にご確認ください。制度・数値は変更される場合があります。